季刊 表現の技術

すべての人間に公開

書き込みのある本

ブックオフ認知行動療法の入門書を何気なく手に取った。

書き込みながら実践できるワークブックで、ページを開くと前の所有者の書き込みが残っている。

彼女は30歳を少し過ぎていて、独身で、病気療養中だ。つまり性別以下、その程度の情報は読み取れてしまうような内容の書き込みである。

こういうものを市場に置いてはいけない、と使命感に駆られたわけではなく、ぼくは他人の書き込みがある本が好きなので、買って帰った。

古本の書き込みを読むのは手紙をもらう嬉しさと他人の日記を盗み読む罪悪感とを足して希釈したような楽しみである。

でもブックオフで書き込みのある本はあまり見かけない気がする。中古だけどきれいな本、が昔から売りですよね。今回のは鉛筆の書き込みだから消すこともできたはずだ。なんで見落とされたのか考えたんですが、彼女の筆跡は丁寧で大きさも濃さも安定している。だからパラパラとめくっただけだと印刷された「記入例」に見えたんじゃないかと思う。