季刊 表現の技術

すべての人間に公開

この10年で成長した点

Tシャツのタグを取り外さなくなったこと。

前はTシャツの背中側についているタグを取らずにはいられなかった。感覚過敏で、ついたままだと不快でしかたなかったのだ。

ぼくがいつも新品のTシャツからタグをむしりとって、しばしば穴をあけているのを知って、母が縫い目を切る専用の手芸道具を送ってくれたのを思い出す。小さい「さすまた」みたいな形をしたやつです。

10年前から、週末に公園で謎の男に忍術を習うようになった。忍術というのはぼくが勝手につけた名称で、その実態は太極拳とかヨガとかが混ざっているらしい、謎の体操である。謎の男=忍術の先生は、平日には会社員をやっているらしいが、それ以外は謎である(あとメガネをかけている)。

忍術は、それほど激しい運動ではない。比較的簡単な、老若男女誰でもできる体操みたいな動作を繰り返す。そのときに、自分の体がどう動いているかを精密にセルフモニタリングする……ように意識する。筋肉や運動神経を鍛えているというよりは、感覚と脳を鍛えている感じである。

これを10年やって、自分の体の動きや感覚に意識的になっていったら、いつのまにかTシャツのタグが気にならなくなった。

他にも、痛みに極端に弱かったのが、人並みに痛みから気を逸らせるようになったし、採血で注射針を刺すのを凝視しても平気になった。あと足音が小さくなって、人に後ろから近づいて「こんにちは」と声をかけるとギョッとされる事件がしばしば起きるようになった(忍術と名付けたゆえんである)。これらの変化が、どこまで忍術と関係しているのかわからないけど、他には心当たりがない。