季刊 表現の技術

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表情筋の解放について

前に中年のボディビルダーの人のYouTube動画を観ていたら、ボディビルダーが年齢よりも若く見られる理由のひとつとして、

「重りを持ち上げるときに力を入れるので、日常生活ではまずしない、すンごい表情になってしまう。それによって表情筋が鍛えられ、顔の若さが保たれるのかもしれませんねえ」

というようなことをおっしゃっていた。

体を鍛え、健康管理に気をつかっているというスポーツマン一般に共通する要因、人の目に日頃からさらされているというパフォーマー全般に共通する要因はもっと大きいのだろうけれども、ちょっとおもしろい仮説だなと思ったことであった。

ぼくのようにあまり人と接しない生活を送っていると、コミュニケーション手段として表情を使うことが少なく、日常のほとんどを無表情で過ごすことになる。

つらい仕事や味気ない生活に耐えるために、なるべく感情を動かさないようにして、精神の安定を維持する戦略をとっている現代人は少なくないだろう。そういう人も、あまり表情筋はつかわないと思う。

そんなぼくでも、筋トレをするときにはめちゃくちゃ表情筋を使う。もう限界というところからあと1回、腕立てで自分の体重を持ち上げるために、全力で力む。鼻の穴は10円玉大に拡大し、眉毛と目は正中線に集中し、唇が裏返りながら前方に突出する。類人猿のオーガズムみたいな表情になる(類人猿のオーガズムについて詳しくは知らない)。

筋トレが気持ちいい、楽しい、と感じるのは、普段は活用されていない表情筋のちからを解放するからなのかもしれない。