季刊 表現の技術

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ケンチキの階段と天一の床

脳のメンテナンスをしてもらうため雑居ビルの4階にあるドックへ行った。

 

メンテナンスの最後にドクターが質問した。「なにか気になることはありませんか?」

ドクターの白いズボンの膝が少し破れて血がにじんでいる。それが少し気になったが、「いえ特に、大丈夫です」と俺は答えた。

行きはエレベーターで4階まで上がったが、帰りは新しい脳の試運転も兼ねて階段を使う。

ビルの3階は古銭屋である。2階と1階にケンタッキーフライドチキンが入っている。

小さな雑居ビルだから階段は狭かった。幅50センチくらいに感じた。肩をすぼめる気分で4階から3階へ、3階から2階へと降りていく。

2階につくと、床がベタベタしていることに気づいた。2階から1階へ降りる階段もベタベタしていた。1階に降りてからも、ビルを出るまでスニーカーの底に粘着感が残った。天下一品の床と同じだと思った。鳥料理の店に特有の現象なのかなと俺は考えた。