季刊 表現の技術

すべての人間に公開

人生を、寿命を盗まれた感じだ。

今年になってから6月が終わるまでに家賃を2回しか払わなかった。ずっと払うのを忘れていて、3ヶ月分のまとめ払いを2回繰り返したのである。

なぜ払い忘れたのか。まさか3ヶ月もたっているとは思わなかったから。まだ1ヶ月もたっていない感覚だったのに、気づいたら3ヶ月たっていた。体感と、実際の時間経過に3倍の差があった。気がつかないうちに3ヶ月がすぎ、半年がすぎてしまった。

家賃が遅れて家主にすまなかったとはあまり思わないが、我が人生の貴重な半年間が何者かによって盗まれたという被害意識は強い。誰だ、俺の人生を盗んだのは? いま確かめたら図書館で借りた本の返却期限が明日だ。貸出期間は2週間である。つい数日前に借りたばかりのような気がするのだが。

貸し出し期間は、図書館のサイトで1週間延長できる。延長しようとしたら、すでに1週間の延長も使った後だった。なんということだ。ほんの数日前にこの本を借りたはずなのに、いつのまにか3週間がすぎている。またしても俺の人生が盗まれている。

 

と、7月のある日の日記に書いた。本当にこの半年間はあっという間だった。人生を盗まれたという感想は必ずしも冗談ではない。

この半年間は、だいたい7時に起きていた。起きて、朝食がわりのプロテインを飲んで、インタネットをみる。しばらく見ていると疲れてくるので、布団に横になる。ぐうと寝てしまう。10時から14時くらいまで寝る。起きると遅い昼食を食べる。ここで元気があればジムへ運動をしに行く。元気がなければ、布団かソファでスマホをいじっている。スマホを横にして、ゲーム機のように持って、スマホゲームをするのである。そのうちにまたぐうと寝てしまうこともある。

夕方になると夕食を食べる。夕食後、少し元気が出てジムに行くこともある。いずれにしてもジムに行くのは週に2回か3回である。ジムに行く元気がなければ、横になってスマホをいじる。ゲームをするか、スマホにイヤホーンをつけてYouTubeに違法アップロードされたラジオ音源を聴いている。そうこうしているうちに、だいたいぐうと寝てしまう。何度も昼寝して、夜も早々に寝てしまうわけだから、寝過ぎである。だいたい夜中の1時くらいに目が覚める。パソコンにむかって、少しインタネットをみる。4時には疲れ果てるので、また布団に入って、スマホで違法音源を聴いているとぐうと寝てしまう。

 

これが、今年上半期の標準的な一日であった。2週に一度くらい、夜中か午後にパソコンに向かって仕事をする日があったと記憶する。50日に一度くらいは、仕事の打ち合わせとか、取材とかに出かけたような気もする。2回くらいニコ生に出演したような気もする。寝てばかりいるのに目の下には濃いクマがあって、あまり人前に出たくない顔であった。

どうしてこういう生活をしたのかというと、こういう生活をしたかったからだが、毎日がだいたい同じ暮らしになってしまった。変わりばえのない生活をすると、時間はあっという間にすぎてしまう。

体感時間を決定する要素のひとつは、脳が受け取っている情報の量である。

処理する情報の量が多いほど、時間の経過は遅くなる。反対に情報が少ないと、時間は加速していく。別の表現をするならば、私たちがまわりの世界にどれほど注意を向け、そこに現実味を感じとるかが、時間の速い遅いを決定する。

 スティーヴ・テイラー『メイキング・タイム 〜時間の流れをコントロール』

 

子どもは新鮮な目で世界を見て、たくさんの情報を受け取り、 処理しているから、おとなよりも体感時間が遅い。

同上

 

小学生のころ、夏休みの1ヶ月間があんなに長かったのに、大人になると1年があっという間に過ぎてしまうのはこういうことだ。

大人でも見知らぬ土地へ旅をしたときは新鮮な目で世界を見る。このときは、ゆっくりと進む子どもの時間にもどっている。

逆に、ただでさえ新鮮な感覚をうしなっている大人が、毎日おなじような生活をしたら。入ってくる情報は激減して、体感時間は加速する。3ヶ月が1ヶ月になる。

3ヶ月が1ヶ月に圧縮される生活をしていたら、多少長生きしても無意味だと思う。123歳まで生きても41歳で死ぬ感じになってしまう。*1

怖くなったので、とりあえず毎日家を出てあてもなく歩き回ることにした。ずっと家で寝たりスマホゲームをしたりしているよりは情報処理量が増えるだろう。

 

*1:123歳まで生きると22世紀を見られるので、123歳まで生きたい。