季刊 表現の技術

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ひこうき雲の東京

正月になると、ドラえもんでもサザエさんでも登場人物たちが羽子板で遊ぶので、見ていてなにか釈然としないものを感じていた。現実にそういう遊びをしている人を見かけないのと、羽子板をしている場面が正月にもかかわらず晴れて暖かそうだからであった。

新潟から出てきて、12月から1月にかけての東京地方というのは雲ひとつない晴れの日が続くと知った。昼間は「日差しが暖かい」と感じられることもよくある。対して新潟は、広いのでどこもかしこも豪雪地帯というわけではないけれど、比較的雪の少ない地方でも道路や空き地は雪でぬかるんでいるか消雪パイプの水で濡れているかで羽子板には適さない。正月あたりはずっと暗い曇りの日が続くのである。

この季節の東京の空はどこまでも青く、雲はなく、ひこうき雲が映える空だ。ビル清掃のバイトをしていたときに「12月の東京の空は美しいんですよね」と言ったら、一緒に働いていた明治大学の学生で、小劇団で芝居をしている✗✗井さんが「おっ」と言って笑った。「ロマンチストですねえ(笑)」的な、ちょっと冷やかす感じであった。✗✗井さんとしたのは名を伏せたのではなく「井」しか思い出せないのである。今も演劇活動をしているのだろうか。最近は寒いと外出がおっくうで、冬にひこうき雲を見ることも減った。