季刊 表現の技術

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父の大発見

父はインテリではなく、高卒の労働者だった人なのだが(とはいえ父の田舎では、地元の実業高校に進学できる人も決して多数派ではなかったといいます、かつて日本は貧しかった)、ある文学史上の大発見をして、しかし学会に発表することはせず(学会の入り方を知らなかったのだろう。ぼくも知らない)、酒に酔ったときにぼくにだけこっそり教えてくれたことがある。

文学全集の表紙を開いたところとかに、文豪の写真が載っている。あるいは「新潮日本文学アルバム」みたいな、文豪の写真を多めに載せている本もある。父は言った。

「作家の写真あるだろ。歩いている写真が多い作家は長生きする。志賀直哉とか。太宰治とか、早死にした作家はだいたい座ってる写真ばっかり」

ぼくも酔っていたこともあり、「ああなるほど」などと思って、以来心身の健康のためによく歩くことを心がけている。本当に志賀直哉に歩いている写真が多いのか、太宰は座ってる写真ばかりなのか、定量的に調査したことはありません。すみません。