季刊 表現の技術

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昔「ズッキーニの味噌汁」というショートショートを読んだ

もう10年以上前のことだと思うが、「ズッキーニの味噌汁」というショートショート小説を読んだ。作者が誰だったのかも、なんという本(または雑誌?)に収録されていたのかも思い出せない。ただ、本当に短い作品だったので、「だいたいこんな感じだった」というのを再現はできるのである。

 

《氷の浮いた冷たい汁が晩飯に出たので、すすりながら「ズッキーニは味噌汁に入れてもうまい」と言った。

すると妻が「ズッキーニ?」と怪訝そうに聞き返した。
「ズッキーニ、入れたでしょ」と言うと、「入れていない」と答える。「じゃあなに?」とさらに問うと、「きゅうり」だという。
「そうか。じゃあずいぶん大きなきゅうりだね」
「きゅうりは放っておくとどこまでも大きくなるらしいよ」
きゅうりだったのなら、俺が「ズッキーニは味噌汁に入れてもうまい」と言ったときに、笑いながら「あら、ズッキーニじゃなくてきゅうりよ。ずいぶん大きくて立派でしょう」と訂正すればよいのに。「ズッキーニ?」とバカを見るような顔で聞き返したり、なんども質問してやっときゅうりだと教えてくれたり、ずいぶん不親切でクッションがない。》
 
「ずいぶん不親切でクッションがない」というおしまいの表現がなぜか心に残り、特に鮮明に憶えている。「ズッキーニの味噌汁」で検索しても、それらしい作品はヒットしないのである。