季刊 表現の技術

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今日は休館日

図書館に行ったら入り口のスロープがチェーンで塞がれていた。その前に立っていた男が「今日は休館日である」ということを説明してくれた。

「1月31日は、コンサートがあって、すごくにぎやかで、日曜日はコンサートがあったから」

ぼくは頷きながら話を聞いた。

マスクで顔のはんぶんが隠れている。表情が伝わりにくいぶん、ちゃんと聞いていることを身振りで伝えなくてはいけない。

この図書館には小さなホールも併設されている。今日は図書館だけでなく、文化センターと呼ばれる建物全体が休みらしい。

男はぼくより10歳くらい若い、つまり30前後の男で、ぼくと同じような毛糸の帽子と、ぼくと同じようなナイロンのジャンパーを着ていた。ズボンはトレパンだった。ここの職員には見えなかった。たぶん誰に頼まれたのでもなく、今日は休館日だと知らせているボランティアなのだ。

「あとでヒグチさんが来て、マツシタさんも来たから……」

ヒグチさんとマツシタさん? 話が見えなくなってきた。つまり…

「今日は休館日なんですね」すきを見てぼくは口を挟んだ。

「そう、あっちの白いのが」

男は裏庭の向こうを指差す。ガラスの自動ドアに貼られた白い紙が見えた。字は見えないが、たぶん「本日は休館日です」とか書いてある。

「白いのが取れたら」

「開くんですね」

「白いのがあっちに行ったら、人たちがいっぱい来て、そう。白いのが取れたら」

わかりました、ありがとうと言って帰ってきた。マスクをしていると、如上の理由でお辞儀も深くなる。